いがログ。

歴史を愛するライターの”仕事と日々”。

朝は男子便器に手を突っ込むことから始まる

ちょっと「?」と思うタイトルの内容に触れる前に、まずは編集・ライター界隈のことが全くわからないという方に向けて、編集プロダクションについてざっくりとお話させていただきます。

次がないかも……。切実な思いが悲劇を生む

編集プロダクションという場所は基本的に多忙です。

今となっては大変恥ずかしい話なのですが、私は学生時代の就活当時、雑誌の記事は全て出版社の編集者が企画し、取材してきて原稿を書いているのかと思いこんでいました(本当にバカでした、当時の自分を張り倒したくなります)。

が、実際は複数の編集プロダクション(以下、編プロ)やフリーライターなど編集・ライティング専門業者に記事作成を発注し、出版社の編集者はその舵取りをするプロデューサーの役割を担います。

出版不況といわれる昨今、一つの媒体の売上部数が少ないので、出版社は必然的に商品の数を増やそうとします。そうして発生した膨大な仕事は編プロに降り注ぎます。編プロは都内を中心に文字通り星の数ほどあり、ライバルがたくさんいます。

そんな中で名のある出版社の仕事をした実績があれば後の営業ツールになりますし、一度断ってしまえば次がないかも知れないという状況なので、どんなに人道的におかしいスケジュールでも仕事は受注されます。そして、編プロスタッフの手元にやってきます。

出版社の編集担当者の中には昼頃出勤~夜遅くまで残るというスタイルで仕事をしている人も少なくないため、それに合わせて昼~夜までの勤務時間を設定している編プロも多いのですが、私の勤めていた会社では違いました。始業時間は朝9時、そこから終電に乗れるギリギリの24時頃までほとんどの人が残ってガシガシ働いていました。フレックス何それ? という環境でした。

ここで、やっと今回のタイトルに絡む本題です。

 前時代的な掃除分担

始業時間は朝9時なのですが、始業前に社員総出で社内の掃除をしていました。年末の大掃除ではなく、毎日の仕事の一環としてやっていました。しかも、それは年末の大掃除に匹敵するレベルの超徹底的なものでした。

掃除機で社内中のゴミを吸い出し、雑巾で社内中のありとあらゆるデスクやイスや棚を拭きまくり、ブラインドの間に溜まった汚れを拭き、壁についたタバコのヤニを拭き、洗面所など共用の場所も磨きあげます。経営陣が前日に吸っていた山のようなタバコの吸い殻も処理します。

女性社員は男子・女子トイレの掃除を交代で担当していました。学校に通っていた時は男子トイレ掃除は男子がしていたのに……とも思っていたのですが、「女性の方がきめ細かに掃除をする」という会社の前時代的な考えで、女性がトイレ掃除を割り当てられていました。床全体を雑巾で磨き上げ、男性用小便器の凄まじい悪臭を放っている排出口にも手(素手)を突っ込んで汚れを落とします。何も事情を知らない人が見たらもはやドン引きするレベルです。

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そんな大掛かりな掃除を毎朝やるものですから、9時始業と言いながら8時半には出勤している人が大半でした。みんな昨日の夜も終電間際まで、人によっては朝までコースだった人もいるのに、そんな中で自分だけ遅れたら村八分にされる……! という島国的な考えで、みんな睡眠2~3時間の体を引きずって出勤し、懸命に掃除していました。

戦時中の軍隊さながらの空気感

この掃除、適当にやる人はいませんでした。それは会社の軍隊的な空気が大いに関係していたと思っています。

編集部が極端に忙しかった時期は体力的に耐え切れず、9時ギリギリに出勤してくる人が徐々に増え、社長から「なんで編集はいつも遅いんだ!」と朝からあまりにも理不尽な檄が飛んだこともありましたが、そのような状況でも表情を変えずに謝罪しなければならない、経営陣を絶対的に崇めなければならないような、戦時中の軍隊みたいな空気がありました。

そんな空気の中で掃除を適当にやろうものならどうなるかわかりませんし、社員同士、他の社員がちゃんと掃除しているか監視し合っているような空気を感じていました。

結果的に会社で働いている時間は8時半~24時までが平均でした。終電で帰れれば良い方で、入社したての頃に先輩たちのタイムカードをこっそり盗み見て仰天したことがありました。とはいえ、退職間際の私のタイムカードも似たようなものになり、電通の事件も他人事ではないように思えましたが……。

「キツい」=「エキサイティング」

会社の独自のルールや仕事の進め方などに誰一人「このやり方はキツいんじゃないか?おかしいんじゃないか?」と異を唱えられない環境で、終電帰りからの、毎朝の大掃除からの、いつもの怒涛の業務をまた終電まで……という日々が延々続くので、そんじょそこらのゆるめな編プロよりはエキサイティングだと思うようにしていました。

よく一緒に取材に行っていた外部のカメラマンさんが、私の会社の話を聞いて「シビれるねぇ、エキサイティングだねぇ」と、他人事感は満点なのですが温かい言葉を送ってくれたことがありました。その言葉を聞いた時、「キツい」のではなく、「エキサイティング」と表現するだけでどこか救われる気がしていました。何事も笑いに持っていく気持ちって大切みたいです。

「身体的にも精神的にもキツい上、朝から自分が使っていない男子トイレの便器に手を突っ込まされるって、マジありえない!」と入社当時はすぐさま思いましたし、今も思っていますが、お蔭様で小さなことではうろたえない胆力が鍛えられました。

最終的にはこの朝の掃除の時間、体を動かしながらその日の業務内容を頭の中でまとめ、仕事を無駄なく進められるように脳内を整理する時間として活用していました。

当時は外部のライターやカメラマンなどにこっそり話し、「俺そんなの絶対むりむりむり!」「早く辞めなよ!」と口々に言われ、その度にげんなりしていましたが、今では「男子便器の掃除は任せて下さい!」と楽しく昇華しています。

あの有名ブロガー・はあちゅうさんも、嫌な思いをしたらネタにしないと「嫌な思いし損」だと本に書いていたので、これからは存分に話のタネにしようと思っています。