いがログ。

歴史を愛するライターの”仕事と日々”。

見られていた

昨年のバレンタイン、勤めていた会社であるものを見てしまいました。ここに書こうかだいぶ迷ったくらいグレーゾーンな話です。

社長は神様

ワンマン社長が多いというのは編プロあるあるらしいです。

編プロ入社後に外部のカメラマンやライターから漏れ聞いたり、ネットで色々な方の編プロ体験談や口コミなどを読んだりして、何故かはわかりませんがそういう傾向があることを知りました。私の勤めていた会社もなかなかに独特なワンマン体制で、社長を神のごとく崇める一神教のような空気感がありました。

 

最初の面接の時点で他社とは明らかに違いました。今思えば、この時点でおかしいと気付くべきだったのかも知れません。

面接の際、通常なら自己PRや志望動機などを会社の代表者や採用担当者に伝え、自分を採用することがいかに魅力的かをアピールします。しかし、この会社の面接では自分のことを語る場面はほとんどなく、ひたすらに社長が語る武勇伝や仕事観の話をうんうんと頷きながら1時間くらい聞き続けることになります。恐らくこの時の態度を見ているのでしょうか、例えフリでも相槌を打ちながら熱心に耳を傾けている人は採用され、そうでない人は見送られたという印象でした。私も当時は「ライターになりたい!」の一心でしたから、内心「他の会社とはどこか違う……」と違和感を抱きつつも、一生懸命「目上の方が苦労された話をしっかりと聞き、理解しようとする善良な若者」を演じていました。そしてそれが幸か不幸か、採用に至った訳です。採用は一言、社長が「うん」と言えば通ってしまうのです。

 ”教典”を絶叫唱和

入社後は本格的に社長崇拝の渦に巻き込まれていきました。

朝は毎日、社長が執筆した長い長い社訓を全文、全社員で読み上げます。社内では「読み上げ」と言っていましたが、「“叫び”上げ」と表現した方が正しいのではと思ってしまうほど、過剰な大声で絶叫唱和するように教え込まれました。腹から声が出ていないと後ろから見ていた上司にあとで呼び出され、「声が小せぇぞゴラァ!」と指摘を受けるので、連日の終電帰り⇒朝からの全力大掃除で大声を出す元気がなくとも腹から無理やり声を捻り出していました。

私に声の大きさを指摘した上司も、他の同僚も、この“教典”を活き活きと読んでいる人は誰一人いませんでした。社長の圧倒的存在感と社内に漂う圧迫感がつくり出した、「社長を崇拝しなければいけない」空気が、社員をこの行動に駆り立てていました。私に指摘した上司も、その場で注意しておかなければ後で自分がさらに上の人に色々言われるので、渋々注意していたに過ぎないのです。

社長が部署にふらっと訪れた時にはどんなに忙しくても作業の手を止め、部署全員で社長を囲み、社長に注目して話を一言一句漏らさず聞きました。社長が「夕飯に行こう」と言えば、奇跡的に早めに帰れるはずだった日も社長に付き合って近所の居酒屋に行き、いつも通りの終電間際までひたすら社長の話に頷き続けるイエスマンを演じました。社長の言うこと・することは絶対だったのです。

 ”駅ストリーム”チョコ探し

ようやく冒頭で触れたバレンタインの話です。

ここまで書いてきたように、社長はこの会社内では絶対的なカリスマを誇っていたので、毎年バレンタインデーには女性社員全員が社長にチョコを贈らなければいけない慣習がありました。「強制ではない」なんて言っている人もいましたが、女性社員がチョコを持って次々と社長のもとに向かう中で、私が渡さなかったら「で、お前は?」ってなるじゃないですか。「集団」を大事にしてきた島国・ニッポンでは孤高の行動は時として自身を孤立に追い込みますので、「強制ではない」なんて建前で、結局は贈らざるをえない雰囲気がありました。

「女性は社長にアレを“献上”しなきゃならないんでしょww?」と意地悪な男性社員に言われ、「てめええぇぇぇ!!!!!」と掴みかかりたくなるのを抑えつつ、どうしたら安く、他の女性社員と比べて遜色のないクオリティのチョコを調達できるか考えました。みんな内心嫌々用意しているくせに、やたらと高価な感じのチョコを贈っているので、学生時代に男友達に気軽に配っていたレベルのチョコでは許されない雰囲気でした。とはいえ、連日の激務で仕事のある日はチョコの調達なんてとても無理。

少ない休日にこんなことのために大幅な時間を割きたくなかったので、結局実行したのは“駅ストリーム”チョコ探し。一番近いターミナル駅に行き、駅内の特設チョコ売り場を10分で巡り、一番安く見た目も申し分ないチョコを超集中探索して購入し、ようやく自分の休日をスタートさせました。安く済むからと手作りしている人もいましたが、時間と手間がもったいなさ過ぎて、私にはそこまでできませんでした。

チョコレートを献上。しかし……

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そうして迎えた、バレンタインに一番近い出勤日。この日、女性社員たちは各々準備したチョコを持って、ゾロゾロと固まって社長のもとへ出向いていきます。その様を見た時は、巨大な脅威から身を守るために群れている小魚たちを連想しました。

しかし昨年の私はその集団謁見のタイミングでちょうど取材に出ており、その群れに加わることはできませんでした。よって、取材から帰社した後に一人で社長室に行かなければなりませんでした。

 

初めて入る社長室。緊張しながら、ノックを3回。「失礼します!」

……返事がありません。一応もう一度。

「失礼します!」

……返事がありません。

意を決してドアを開けると、椅子にもたれて眠っている社長の姿が。社員があなたのために必死こいて働いているのに昼寝とは……と呆れかけた時、社長の背後に見えたものに気付いて固まってしまいました。

 

社長室の壁には、20~30ほどの数の画面がずらりと並んでいました。そこに映っていたのは、社内で今、正に働いている社員たちの姿でした。広角で部署全体を映しているものもあれば、ある特定の社員にクローズアップしているものもありました。

ハッと思い出したのは、社内のあちこちに設置された監視カメラの存在。防犯用にあるのかと思って特に気にしていませんでしたし、恐らく防犯の役目も果たしているのでしょうが、あのカメラを通じ、この人はこの場所から社員の様子をリアルタイムでモニタリングしていたようなのです。

 

……マジか、マジか、マジですか。

部署全体を映しているものならまだしも、個人にまでそんなに寄りまくって。ヘトヘトな社員の表情丸見えですよ、彼らはまさかそんな顔を生中継で見られているなんて想像もしてないんですよ! ここ刑務所? 強制収容所? ここは法の及ばない世界なの?

 

色々な思いがよぎり、しばらく固まって画面を眺めていると、社長が目を覚ましました。慌ててチョコを押しつけます。

「しゃっ、社長、バレンタインのチョコです」

「……んん? あぁ、ありがとう」

寝ぼけ眼の社長の手にチョコを納め、早足で社長室を去りました。その足で女子トイレに駆け込み、個室の中から掃除用具入れ、床から天井までカメラがないことを念のため隈なくチェックし、ようやく編集部に戻りました。

監視をするということ 

あの部屋を見て以来、社内のあちこちに設置されている監視カメラの視線を意識しながら業務に就くことになりました。何をするにもカメラが極力自分の表情を捉えないようカメラに背を向けたり、朝までコースの日は逆に「ほら朝まで頑張ってますよ私! 給料上げて!ほら!ほら!」と言わんばかりに必死な姿をアピールしたりしました。

世の中に完全な悪はないと思っています。あの社長も相当に苦労し、自分なりの仕事観や人生観を持っていて、素直に尊敬できるところも一部ありました。未経験だった私にライターの肩書きを与え、様々な経験をさせてくれたことには感謝しています。だから、あの部屋で見たことも、きっとあの人の何らかの考えがあって行われていたのだと思いたい。

とはいえ、監視されていたという事実には、社長から社員への不信感が含まれているように思えてなりませんでした。表向きは圧倒的カリスマを誇り、厳しい労働環境をつくり出していたワンマン社長は、実は一番孤独で苦しんでいたのかも知れません。