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いがログ。

歴史を愛するライターの”仕事と日々”。

夜は短し歩けよ乙女

星野源さんが出ている某アニメ映画とは全く関係ない、編プロ時代の金曜夜の話です。

編プロ勤務時代は基本的に退勤時間=終電時間で、「まだまだ業務はあるけど終電の時間が来たから帰る」といった様相でした。とはいえ、いつも終電で帰れたかというとそんなこともなく、終電を過ぎても勤務を余儀なくされ、タクシー帰り(自腹)が頻発する月もありました。自腹のタクシー代は会社から自宅まで約4000円弱。ただでさえ薄給で皆無に等しい残業手当しか出ないのに、月に4000円弱を連発するのはなんとも苦しい。

結論として、歩いて帰ることにしたのです。

 ”自腹タクシー代”の悔しさをバネに

20代女性が深夜の街を一人で歩いて帰宅するということ。普通なら色んな危険を考慮して「やめなよ!」と止められそうですが、例え止められていたとしても当時の私ならやはり実行したと思います。

なんといっても終電後のタクシーに乗るのですから、運賃は深夜料金です。割高です。本当なら会社のお金を使って定期で帰れたはずの道のりを、いつもより高額な運賃を自分で何度も出して帰宅することがあまりにも虚しくて、悔しくて、歯がゆくて……。タクシーの運転手によっては、道に迷って遠回りした挙句500円くらいアップしてしまうこともしばしば。

「こうなったら自力で歩いて帰ってタクシー代を浮かせてやる! 例え道中で強盗や強姦被害に遭ったって会社のせいにしてやる! そうしたらあの漆黒のブラック企業の実態がニュースになるぞ! ざまあみろ!」なんてとんでもないことを考えてました。そのくらい追い詰められていたみたいです。「忙しい」=心を失くすというのは本当に恐ろしいことです。

幸いにもその日の靴はいわゆる“ぺたんこ靴”。取材で外出する機会も多く、ヒールを履いてそれほど格好つける必要がないこともわかったので、慣れてきた頃にはもっぱらぺたんこ靴でした。長距離徒歩にはうってつけです。

持ち物は通勤時に持ってきたバッグと、勤務中に時間がなくて食べきれず、持ち帰れと言われた弁当。この弁当は残業をする人(つまりほぼ全員)に残業代の一部として提供される物で、業務が比較的空いている人や入社したての新人などが気を利かせて買いに走ってくれたり、業務が立て込んでる時は自分が買いに行かなくて済むように互いに知らん顔をして「弁当係」をなすりつけ合ったりする代物です。一応給料の一部ということで、しっかりといただいていくことにしました。

(ちなみにその日は金曜日の夜。流石に私も次の日に業務がある日に歩いて帰ろうなんて発想は出ません)

こうして、私の就業後ナイトハイクが始まったのでした。

夜の街が見せる光と闇

会社を出発したのは午前3時くらい。辺りは当然ですが静まりかえって歩いている人は酔っぱらいかホームレスっぽい人くらい、道を走る車もタクシーばかりです。深夜営業してるコンビニの強すぎる灯りと街灯だけが夜道を照らしていました。タクシーがシュンっと走り去ると、世界が静止したように音が消え、また静寂が訪れました。これだけ人がいないとやっぱり深夜営業はあまり意味がないんじゃ……と思ってしまいます。日本は働き方見直すべき。

スマホのグーグルマップを頼りに、自分の現在地を確認しながら進んでいきます。金曜日の夜だったので、世間はいわゆる“華金”。こんな勤務環境だと華金なんて経験したことなかったので、ちょっとだけ憧れではありました。通り過ぎる路面店の居酒屋などから、温かな灯りや煙草の匂い、ドッと弾けるようなおじさんたちの笑い声が漏れてきて、いいなぁと思いました。

いつもは電車通勤なので、歩いて通ったことなどない道のりでした。知らない道、知らない街並み、知らない店の連続に、歩き始めでまだ体力が有り余っていたこともあり、ちょっとした探検気分で楽しんでいました。例え、道端で吐き散らしてるおじさんに遭遇しようとも。

道中には有名出版社も数多くありました。横を通り過ぎたのは午前3時代でしたが、世間では誰もが知る会社のビルにも、煌々と灯りがともっていました。つまり、働いている人がいたということです。編プロが大変なのは言わずもがなですが、版元の人も大変なんだよなぁ……と出版業界とそこで働く人々の未来を憂えた瞬間でした。

無視&早歩きで危険回避

とはいえ、やっぱり夜の街はワクワクすることばかりではありませんでした。

ターミナル駅に近付くにつれ街明かりも人も増えていき、物寂しい感じではなくなるものの、面倒くさい予感がしてきます。ナンパです。

夜の繁華街には飲み散らかしたサラリーマンや大学生、客引きする居酒屋の店員やホストっぽい人であふれています。

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※イメージ

そんな中で信号待ちをしている時に2~3人の男性が声をかけてきたのですが、夜の街の人々のラインナップを見ればわかる通り、こんな時間にこんな場所で疲れ果てた女子に声をかけようとする奴なんてロクな者ではありません。言うことも一緒です。「一人?」「ホテル行く?」もっとバリエーションやボキャブラリーはないのかと思ってしまいます。

街にはこんなにもたくさんの人があふれているのに、結局人は孤独なんだな……寂しいんだな……と思わずにいられない不憫な感じの人もいて、返事してあげたくなる時もあります。しかし、一度返事をしたらもう際限なくずーっと付いてくるので、そこは断固として無視を決め込む。そして、早歩きでその場を去るに限ります。

繁華街を抜け、住宅街に入っても同じです。私と同じく徒歩で帰宅しようとしていたのでしょうか、進行方向が同じでしばらく並行して歩いていたおじさんが近寄ってきて「方面同じですね。家、どの辺なんですか?」と言ってきたって無視です。街明かりも人気も一気になくなる住宅街の方がむしろ怖いです。

達成感と虚しさ

こうして午前5時頃に自宅に到着。時間にして約2時間かかりました。あとでグーグルマップで確認してみたところ、距離は8km強。時速約4km/hといったところでしょうか。

ぺたんこ靴だったとはいえ、後半には流石に足裏が痛み、信号待ちの度に足を回したり、ふくらはぎを軽くマッサージしたりして進みました。アスリートか。

お風呂に入り、パジャマに着替えて布団をかぶり、窓の外で照り始めた朝日を感じながらようやく眠りに落ちようとした瞬間、「4000円節約したぞ!」というこの上ない達成感に満ちました。と同時に、凄まじい虚しさも襲ってきました。

世の中の多くの会社勤めの人はあと数時間で目を覚まして、王様のブランチを見て、優雅な土曜日が始まるのに、私はこのままでは「気付いたら夕方or夜」というコースを辿ることになり、自由な時間を大幅に無駄にします。そして勤務環境を変えなければ、こんな生活が続いてしまうのです。

 

これ以降、何が何でも終電に滑り込むようにしたり、泣く泣くタクシーに乗ったりしてナイトハイク帰宅することはなくなりました。

「会社の近くに住めば?」という人もいましたが、それこそ終電という概念がなくなり、“定額使い放題社員”になってしまうので、そのアイデアは絶対に採用できなかったのです。

今はフリーになり、自分でスケジュールをやりくりできるので幸せです。とはいえ、例え歩いて帰ったってこんな風にのちのちブログのネタにするしかありません。世の中の不当で不毛な勤務環境がなくなることを祈るばかりです。

まだ働いている人はどうか無理せずに! 素敵な週末を!