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いがログ。

歴史を愛するライターの”仕事と日々”。

『世界のお墓文化紀行』感想-お墓は怖い場所じゃない

ずっと読みたかった『世界のお墓文化紀行』読了しました!

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周囲からは珍しがられるのですが、私はぶっちゃけお墓が好きです。こんなことを言うと、今、20代半ばなので「この間就活が終わったばっかなのにもう終活してるの!?」みたいなことを言われたり、「こいつ霊魂が何だとか言い出しそう……」みたいな目で見られたりするのですが、そういうことではなく、純粋に人の歴史や死生観が詰まった場所として興味があるのです。

この本は「不思議な墓地・美しい霊園をめぐり、さまざまな民族の死生観をひも解く」というサブタイトルの通り、世界中の墓地や霊園がきれいな写真と共に紹介されています。

ページをめぐるとしょっぱな、フィリピンのハンギング・コフィンという断崖に吊るされた棺の写真があって度肝を抜かれたり、「芸術性のない墓は建てるな」というドレスコードのある意識も敷居も高いイタリアの霊園に「ちょw プレッシャーw」とちょっと笑ったりしながら、一気に読み切りました。本自体はそれなりに厚みがあるのですが、ビジュアル重視でテキストはそれほどぎっしりではないので、さくさくと読み進められます。読みつつ、気になった点をまとめてみました。

死後の家は現世並みにシビア

土葬にしろ火葬にしろ、人を何かしら形を留めた状態で埋葬するにはそれなりに場所が必要です。火葬して骨壺に骨を収めるならまだしも、土葬で全身そっくりそのまま葬るなら尚更です。

この本のデータによると日本の火葬率は99.9%なのですが、世界的に見ると死後に復活できない、親の身体を焼くのは不孝だ、などの色んな理由で火葬している国の割合は少ない印象でした(増えてきてはいるようですが)。

土葬すると前述の通り、人間一人分のスペースを確保しなくてはならないので、時代を経るごとに墓はどんどん埋まっていきます。とにかく、場所がないことが問題のようです。

フランスはカトリック国なので土葬率が高く、パリ中心部の墓地は隙間なくびっしりと墓石が並び、地下には棺が4~5個ほど縦に積み重ねられて埋まっているそうです。土地のない東京にビルが並び立つようなものでしょうか。

イタリアなどでは埋葬から10年経つと遺体を掘り起こして小さな棺に入れ替え、家族墓などに改めて埋葬され、掘り起こした埋葬地は別の誰かが再利用するそう。賃貸マンションみたいです。

こうして見ると、お墓は死後の家ではあるものの、現世の家並みにシビアな現実があるなぁとまざまざと感じます。香港では土地がなさすぎて、家より納骨堂の方が高いらしいです。お墓はあの世とこの世を結ぶ場所でありながら、それを管理する現世の人の都合が大いに繁栄された、とっても現実的な場所でもあると感じます。

生と死の距離感

墓地や霊園はおおよそ、人の生活圏から離れたひっそりとした場所に位置していることが多いと感じます。古代エジプトではナイル川西岸を死者の街としましたし、ヴェネチアでは疫病の蔓延を防止するために、「死」を隔離するように墓地オンリーの島を作ったそうです。

ただこの本の中には、店先に自然に墓が建てられているインドネシアの雑貨屋や、畑のど真ん中に置かれ、作物が育つと隠れてしまうガーナの墓石、有名なインド・ガンジス川の水葬など、生活の中に墓や死がナチュラルに馴染んでいる事例も紹介されています。生と死を分けて考える人たちと、生死を連続性のあるものとして捉えて共存している人たちの違いなのだと思います。

この「共存型」の墓は、いつでも家族や村人の目の届くところに当たり前のようにお墓があることで、故人が生きていたことに自然に思いを馳せることができ、人の記憶の中で亡くなった人がもう数十年くらい生きられそうな気がします。温かみを感じる埋葬方法だと思いました。

死んだらみんな同じ

この本の中で一番衝撃を受けたのがイランにあるゾロアスター教の墓「沈黙の塔」。ここでは遺体を骨になるまで鳥に食べさせて葬る「鳥葬」を行います。ゾロアスター教では遺体が不浄だと考えられ、土葬も火葬もせず、鳥葬というスタイルをとるそうです。

鳥葬自体はチベットの天葬の事例で知っていたんですが、この塔では鳥についばまれた後の骨を、塔頂上にぽっかりあいた穴に投げ込むそうです。そして骨はやがて砕けて、土と一体になっていく……。どんな人でも亡くなれば土に還るだけ。だからこそ、多くの人の協力のもとに支えられている限りある生を全うせねばと思います。

お墓は生と愛を感じられる場所

日本ではおどろおどろしいお化け描写の影響なのか、お墓がただの恐怖スポットとして捉えられがちだと思います。実際、確かに不気味な雰囲気はありますし、「土地がない!」「値段が高い!」というとっても現実的な恐ろしさもあります(笑)。

ただそれだけではなく、お墓はある人間が生きていた証であり、その人が生きた意味や歴史が詰まっていて、自分が今「限りある生」を生きていることを感じさせてくれる場所でもあると思います。

また、人間の愛を感じる場所でもあると考えます。ルーマニアには故人のイラスト付きのめちゃくちゃ可愛い墓石がありますし、インドネシアには棺の横に故人を模した人形を飾っているお墓もあるようです。

 

久々に買って良かったと思った本でした。ちょっと変わった海外の写真集感覚でも楽しめると思いますので、「墓?怖くない?」って人も手に取ってみてください~。